2014年4月3日木曜日

サクラの季節になると思い出す現場がある。

随分と昔の話だ。
情報セキュリティを重視しているとされた現場で、個人のICカードで入った部屋には、ワイヤーロックされた開発用パソコンがあった。
電源を入れれば、まずは12桁以上の起動時パスワードを求められる。
暗号化されたHDDからWindowsが起動し、ログインパスワードもまた12桁以上。
パソコンの操作を3分間しなければ、画面はロックされる。
USBメモリの使用はもちろん禁止であるし、インターネットへの接続もない。
用意された開発機材には最低限のアプリケーションがインストールされ、資産管理とウイルススキャンソフトが常駐して目を光らせている。

それほど難しくはない業務ではあったが、マイクロソフトオフィス2003を一式と、サクラエディタで開発しろ、というのはあまりにあんまりな話ではあった。

プリンターはあったように思うが、もちろん紙や資料を部屋から外に持ち出すのは禁止だ。
そもそもプリンタのドライバは私に与えられたパソコンには入っていなかった。

業務の内容は、比較的単純なコーディングだった。
しかし、とにかく量が多い。
さらに、動作検証環境が手元にないため、ミスがあった場合の手戻りが大きい。
チームの進捗は遅れる一方だった。

ある夜に、ふと気がついた。
サクラエディタのマクロを導入すれば自動化できる作業がある。
それも、全体の半分以上は自動化できそうだ。
ヒューマンエラーは減るし、試す価値はある。
目の前が明るくなった気がした。
だが次の瞬間、打ち拉がれることになる。

インターネット接続がないのに、どうやってサクラエディタのマクロ仕様を調べるのだ。

またもくもくと作業に戻ったが、一度頭をよぎった半自動化を諦めきれない。

マクロには現場の機密情報は含まれない。
家でマクロを作成して、現場で使う方法はないか。
だめだ、メールすら受け取ることができない。
どうすれば。
なにか方法はないか。

この夜、二度めのひらめきがあった。
メモを取るためにノートを持ちこむことは黙認されている。
ただしメモを取ったノートは持ち出せず破棄をするしかない。
それならば。
家でさくらエディタのマクロを作成し、コードをノートに書き写して持ち込み、ノートを見ながら現場のパソコンに入力すれば、マクロを組み込めるではないか。

そう。
フィル・ジマーマン氏がPGP暗号を発明した際に、アメリカ政府から暗号技術は武器と見なされて国外に輸出できなかったが、合衆国憲法の出版の自由を盾にソースコードを書籍として出版し世界中に輸出してしまったのと、逆をやればいいのだ。

週末を費やしたサクラエディタ用マクロをノートに写し取り、現場の昼休みを使ってパソコンに入力する。
なぜか涙が出そうだったことを覚えている。
自分の字が汚くて読めないことによるバグという貴重な経験をしつつ、無事にマクロは稼働した。
「半自動コーディングマクロ 手動君」と名付けられたそのマクロは、毎週末バージョンアップを行い、「手動君6号」までリリースされた。

「手動君6号改3」の検討中に、別の現場が炎上したため異動の指示を受けた私は、その後現場がどうなったのかを知らない。
だが、これだけは言える。

そういえばあの製品、世に出てきていないな。

※フィクションです

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